気化式冷風機

STORY05気化式冷風機 RFKシリーズ 開発

既存技術から新たな製品ジャンルを開拓した
ポータブル気化式冷風機の開発。

技術三課 廣岡 成典
技術三課 匂坂 直之

相次ぐ原子力発電所の稼働停止により、私たち日本人のエネルギー問題への関心は、これまでにない高まりを見せている。そんな環境を反映して、今再び注目を浴びているシズオカ製品がある。冷媒を使用する同クラスのスポットクーラーに比べ、消費電力で約1/3、CO2排出量では約1/4という環境性能を誇る「気化式冷風機」がそれだ。業界のパイオニアとして取り組んだ10年間を追った。

ないものだから、作る。それがメーカーの使命

アルコールを肌に塗ると、ヒヤッとした冷感を覚える。この誰もが経験したことがある「気化熱」の原理を応用して冷風を作り出すのが、「気化式冷風機」だ。「滝のそばの涼しさ」に例えられる自然な涼感が特長で、原理そのものはシンプルなので古くからポピュラーな存在ではある。しかし比較的大容量でないとメリットを生み出しにくいため、主に工場用の空調システムなど大型設備に採用されてきた。この気化式冷風機は水が蒸発する際に熱を奪う自然現象を利用しているため、ガスを圧縮・膨張させて熱交換を行う一般的なガス式エアコンに比べて、消費電力や部品構成面で大きなアドバンテージがある。絶対的な冷却能力はガス式エアコンに敵わないものの、周囲に排熱を出さないことも優位点だ。
約10年前の初号機誕生から、一貫して気化式冷風機の開発に当たってきた廣岡が振り返る。「当時は、気化式の空調機器といえば大型クーラーと決まっていました。効率を考えると、冷媒である水を気化させるフィルター部分にある程度の大きさが必要でしたし、水を循環させるためのポンプやタンクといった装置も大きな設備に適していましたからね。でも、もし気化式冷風機を小型化してポータブルに使えるようにしたら、全館冷房が難しい広大な工場や屋外用のスポットクーラーとしての需要があるのではないか。それがこのシリーズが生まれるきっかけでした」。
技術三課 廣岡 成典 写真
技術三課 廣岡 成典

社内の半数は疑問符。それでも挑戦は始まった

「この製品では、技術的な困難よりも商品性を高めるための工夫の方が苦労しましたね」と廣岡は振り返る。工場などで使われるポータブルクーラーには、まず工場扇と呼ばれる大型の扇風機があり、さらに冷却力が求められるなら、スポットクーラーという一人用のガス式エアコン、この2種が主流だった。前者は価格は安いが気温は下げられず、後者は冷却能力は申し分ないがランニングコストが高い。気化式冷風機は、その中間を狙う製品だ。
「それをいいとこ取りと考えるか中途半端と捉えるか。社内でも意見は真っ二つに分かれました。お客様を良く知る営業からも、『そんなの誰も買わないよ』という声が出たほどです。今そういう製品がないのは、単純に需要がないからだ、と。しかしその一方で、半数のスタッフは性能と価格次第ではいけるんじゃないかという期待を抱いていたんです」。また、当時の静岡製機の製品構成も、冷風機の開発にとって追い風となった。ヒーター関連の製品が多い産機と、収穫期が繁忙期となる農機の2本柱を持つシズオカブランドは、共に秋から冬にかけて数の出る製品が多い。ここに夏に向けて需要の高まる製品が加われば、経営上の課題解決にもつながる。
「技術的には、気化器やポンプなど水周りを除けば、既存の技術で対応できる公算がありました。こうして最初の気化式冷風機、RKF-400の開発がスタートしたのです」。
仕事風景

パイオニア、そしてリーダーとして。挑戦は続く

ポンプや配管、そして冷風機の心臓部である気化エレメントの素材選びなど、当初は手探りの分野もはらんで始まったRKF-400の開発だったが、廣岡が考えた通り静岡製機がそれまで培ってきた技術と、部品メーカーの協力のもとに、開発は順調に進んだ。約2年の開発期間を経て発売されたRKF-400は市場で好評を持って迎えられ、早くも翌年には301、401、501と容量の異なる3タイプのラインナップが揃った。「ポータブル気化式冷風機」という新ジャンルの誕生だ。シリーズの改良の歴史を、現場で担当してきた匂坂が語る。「RKFシリーズのヒットは、たくさんの後発製品を生み出しました。初期の冷風機は高度な技術開発というよりはアイデア勝負でしたから、類似品が出てくるのも早い。後発製品が市場に出るころには、僕らはさらに一歩先を行っている必要があります。そこで2年に一度程度のペースでマイナーチェンジ(M/C)を繰り返してきました」。
ラインナップが揃ってから最初のM/Cでは主に可搬性や使い勝手を高める工夫を盛り込み、続く03シリーズでは冷却性能をアップするとともにメンテナンス性を向上させた。現行の05シリーズではルーバーのデザインを見直すことで、より遠く、よりワイドに送風範囲を広げている。「05系ではデザイン性にもこだわって、現場の美観アップにも配慮できるような余裕が出てきました。イベント会場などで使用するお客様の声に応えた仕様です。今のところ、この分野のシェアは当社がリードしていますが、さらにライバルを引き離すための研究も進んでいます。開発者としてはだいぶ熟成してきたという思いもありますが、お客様の声に細かく応えていくためには、まだやれることはたくさんありますね」。
技術三課 匂坂 直之 写真
技術三課 匂坂 直之
MESSAGE開発を振り返って
新たなジャンルの開拓という、産機業界へも影響を与えた気化式冷風機開発プロジェクト。目新しい製品というだけで終わってしまったかもしれない、そんな未知の製品をロングヒット商品に育て上げた原動力は、大企業ではなくとも自社独自のブランドを持ち、ユーザーの直近で製品づくりに取り組んできた静岡製機のR&D体制にある。廣岡は言う。「私がまだ新人だったころよく先輩に言われたのが、『こちらにとっては何千というお客様のひとりでも、お客様にしてみたらひとつのシズオカだ』ということです。例えばクレーム率という言葉にも落とし穴があって、1万台のうちたった1台のクレーム、率にして0.01%という驚異的な信頼性を達成したとしても、その1人のお客様にとっては当社に対する100%の失望が残る。こういった小さくとも貴重な声に応えられるように開発も営業も一体となって製品づくりに当たっていることが、当初は半数が疑問視したRFKシリーズを、長く愛される主力製品に育てられた理由のひとつかもしれませんね」。
仕事風景